大野更紗さん(作家、『困ってる人』著者)のお誘いで、トーク役の一人として参加しました。
もう一人のゲストは猪飼周平さん(一橋大学准教授、『病院の世紀の理論』)。独自の歴史観をもとに骨太の医療史を作り上げている研究者で、かねてから注目している方です。大野さんとやり取りされていることはツイッターで存じ上げておりましたので、お話があった時ご一緒したいと大野さんに提案してみましたところ、ご都合をあわせていただきました。
【映画の紹介】
映画は、佐久病院映画班に所蔵のフィルムを編集し、独自の映像を追加してつくられたもので、とくに前半は記録として見応えがあります。重労働による農夫症の症状の一つの「拘手(こうで)」などが多発した、昭和20年代の野辺山高原を開拓した農民・酪農家の暮らしの様子は、圧巻です。古い映像に登場している方が、今の姿で保健活動の経験を語っておられます。小海町や八千穂村(現在の佐久穂町)の方々も登場し、自分たちで作り上げた健康手帳を手に、全村健康管理活動のさまを語って下さいます。
そのころの佐久病院の診療活動の先進性も、よく描かれています。日本ではじめて脊椎カリエスの手術に取り組んだ様子、その手術の様子を手術室の上方に設けられた見学室で固唾を飲んで見守る人々、手術しながらマイクで解説する若月医師。
佐久病院が主管して開催された日本農村医学会や国際農村医学会での発表風景や、海外からの参加者が八千穂村の農家で歓待を受ける場面からは、当時の高揚した雰囲気が伝わります。
さらにフィルムは、高度成長期の農薬中毒、農耕機械による過労・労災、都市化により男性の働き手が減り、女性や高齢者が農業の担い手になっていった経緯などを紹介していきます。
主人公というよりはまるで狂言回しのように若月俊一先生が登場し、コメントを聞くことができます。
後半に入ると、高齢化した農村での介護事業の追求がテーマになります。老健施設の取り組み、在宅ケア実行委員会から現在の地域ケア科に至る流れ。佐久病院で働いてきた現在の中堅医師の診療風景が見られます。
そして、高度先進医療と地域医療の二足のわらじを履き続けることの難しさをめぐって、医師養成・臨床研修事業のあり方が語られます。
続いて、病院の老朽化に対して佐久病院が選択した「再構築」、つまり救急を中心とした高度先進医療の舞台である佐久医療センター(450床、2013年開院予定)と、地域医療のためのセンターである新しい佐久総合病院本院(300床、2016年開院予定)を建設する計画について、現在の病院幹部の発言が続きます。
この部分は、「二足のわらじ」を今日の農村社会の状況、医療技術・技術システムとそれに伴う医療技術者、特に医師の指向性との関係で、議論が錯綜していることを反映して、事態が複雑であることが判る表現になっています。
若月先生の「医療の民主化は、医療の中だけではできない。地域社会の民主化が必要」という言葉で、この映画わ締めくくられますが、この言葉の示すところは重大だと、僕は思います。
【トークショー】
大野更紗さんの司会は、軽妙というよりは、率直でラディカルで、そしてフロアと一緒に盛り上がります。
「後半、幹部たちが発言するあたりでは、再構築事業を進めながらも、まだ議論の必要が残っていることがわかる」
「農村医学という取り組みは、高度成長期を終えて農村社会の都市化が進んだ時点で、破綻を迎えたのではないか」
「医療の民主化とはどういうことか?民主主義を是とする政治体制との関係は?マルクス主義イデオロギーとの関係は?」等々
参加者は、学生が多かったようですが、医療・福祉系のみならずいろいろな分野の方が集まっていたようです。いわゆる専門外の若い方も含めて、熱心な議論になったことには、感銘を受けました。
【楽屋裏で】
終了後、大野さん、猪飼さん、映画を製作されたグループ現代の方たちと少し懇談しました。
こうした映画が商業的に成り立つのは困難で、例えば今回のようなトークイベントを併催する上映会をあちこちで開いていくなど、支援する運動が必要ではないかという大野さんの発言は、印象的でした。
http://iyasu-mono.com/report/ツイッター試写会トーク%E3%80%80in-渋谷アップリンク/
posted by ふじいひろゆき at 00:46|
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